正直不動産副読本③「共有持分」B面

2022年08月17日

正直不動産公式副読本「不動産業者に負けない24の神知識」という書籍が出版されましたね。

悪い不動産屋のあの手この手を紹介しております。

正直不動産を自負するR産託コンサルタンツとしても、これは無視できません。

 

当社なりに、事例解説を行いますので、皆様の一助になれば幸いです。

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『第三章「共有持分」』B面

前回A面にて「持分屋さん」の存在にて、売却益の一部と土地使用料を盗られたM子様をご紹介しました。

 

B面では持分売買を行ったY村様の立場を解説します。

Y村様の事情

M男様とY村様は、同業の社長同士で趣味も合うことに加え、子どもが同級生との共通点があり、頻繁に呑みに出掛ける親友(たまに羽目を外すこともありお互い妻には秘密の悪友に近い)のご関係だったそうです。

 

30年前、M男様の事業資金としてお金を貸した際、「担保なしというのは友人同士とはいえよくないから、土地の一部を共有にしよう」と登記しました。

 

Y村様の家族は、なんとなく、お金を友人に貸したとだけ聞いており、勝手なことをする父親にあきれていたそうです。

 

そんなY村様家族に不幸が訪れます。奥様が病気にてどうしても今すぐ治療費がほしい!もちろんすぐにM男様に事情を話しますが、会社経営はまだ持ち直していません。それでもM男様は奔走してくれ、貸していたお金は全額返済してもらいました。そのお金でY村様の奥様は治療できたものの、完治は難しく、静養のためY村一家は地方へ引越しすることになります。

治療と転居にて忙しく、持分登記を戻すことはお互いに忘れていたようです。Y村様とM男様の関係はそのまま疎遠になってしまい3年、奥様は亡くなってしまいました。

 

それからさらに約15年、Y村様も亡くなり、当時の事情を知らない長男のY平様が父の共有持分の土地を相続します。

 

当時、小学生だったY平様は、M男様との金銭貸与について詳しい事情は知りません。

大好きな母が病気で苦しかったときに、お金のことで色々話していた男。引っ越した後は交流もなく、恨みはないものの、良い印象はない男です。

そんなM男様と共有している土地があるなんて、なぜ持分があるのかもわからない状況ですが連絡先も知りませんので、どうしようもなく、いつの間にか10年が経過します。

持分売買の広告

その頃には、Y平様も社会人として独立、結婚もして子どもが生まれ、そろそろマイホームを建てたいなと考えていたあるとき・・・

 

ふと目にした持分売買の広告について、福岡のあの土地の持分も頭金くらいにはなるかなと興味を持ちました。

持分売買

Y平様は、共有持分の売買に対応するという不動産会社にまずは相談してみます。

 

(有)X不動産は「こちらの物件でしたら、400万円で買い取れますよ」と回答。

 

正直、昔住んでいた福岡の土地勘はないに等しく相場もわからないけれど・・・マイホームの頭金にちょうどいい額だし、諸経費は不動産会社の負担というし、悪いことはないなと、持分売買を決断します。

 

さて、Y平様は何か違法なことを行ったでしょうか?

 

活用できていない自分の資産の所有権(土地の持分)を売って、マイホーム資金を手に入れただけで、権利に基づく正当な行為しかしていません。

やっぱり「持分屋さん」が悪いのか

強いて、悪者を作るなら、消費者心理的には(有)X不動産かな?とは思いますが、実はX不動産もそれほど酷い会社ではありません。

 

まず、通常の売買価格と比較して当事例の買取価格は確かに安価ではありますが、県外の不動産(しかも持分だけ)を保有するということには、それなりにリスクを伴います。

 

リスクと、利益を出すまでのコストを思えば、買取価格は妥当かむしろ高いとの見方もできます。

持分の所有者が相場を知らないのを良いことに、もっと買い叩くケースも少なくありません。

 

次に、最終的にM子様と一緒に売買をしてくれました。このときも「固定資産税の評価割合にて按分」してくれたのは、優しいケースです。

 

なかには「売ってしまうより、地代が入り続ける方がいい!どうしても一緒に売ってほしいなら、もっとこちらの取り分を増やせ」という持分売買業者も存在します。そして全体で売買するにあたっては、必ず固定資産税の評価割合で行うとの規則はなく、取り分は当事者間で決めていいのですから、この主張をしたとしても違法ではありません。

 

X不動産は、ただ営利法人として、常識の範囲内にて利益を出しただけです。

共有持分の怖さ

結局、この事例は、違法なことをした者は誰もいなくて、関わった三者ともが利益を得て終わった取引事例でした。こういったケースは実は珍しく、もっと汚れたケースも存在します。

 

共有持分の怖さは「所有者ごとに事情が違って当たり前」という点かと思います。

 

当事例では、最終的に全体を売って解決しましたが、売れない(終われない)ケースも存在します。

 

共有する不動産の使用方法を決定するには、必要な共有者の数が民法に定められています。

共有の行為必要数

共有持分者との意見の不一致や、意思能力の欠如(認知症など)により・・・

 

不動産資産があるのに現金化できない。持分だけで売ると価格が下がる。我慢して保有するも価値を上げることは叶わず、維持費で苦しい・・・など、思い通りにできない資産はストレスです。

 

昨今は、とりあえず共有で相続を続けていたら、共有持分者が無限の樹形図のように増えてしまったという物件に出会うことも珍しくなく、そうした物件の取扱いは非常に困難です。

 

もし、不動産を共有しようと考えたときは、今一度、本当に共有で良いのか、しっかりと自分の代のデメリットに加え、次世代になるほど上昇するリスクも考えましょう。